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東京高等裁判所 昭和41年(ネ)16号 判決

控訴人 城南信用金庫

被控訴人 有限会社丸大自動車 外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人訴訟代理人は「原判決中控訴人の敗訴部分を取消す、被控訴人等の請求を棄却する、訴訟費用は第一・二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を、又、被控訴人等訴訟代理人は主文第一項と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上および法律上の主張ならびに証拠〈省略〉………と述べた外は、いずれも原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。

理由

当裁判所の判断は、次のとおり挿入・削除・附加する外は原判決の理由と同一であるから、その記載をここに引用する。

原判決理由3のいわゆる期限の利益喪失約款が締結されていた(原判決九枚目裏一〇行目)の次ぎに「ところ昭和三八年四月一七日日光産業から本件預託金の差押を受けた」と挿入し、同じく原判決理由3のしかし以下の全文(原判決一〇枚目表二行目以下裏八行目まで)を削除し、「右の如き期限の利益喪失約款は前示の相殺により対抗が許される場合に限つて差押債権者に対し効力を認むべきである。けだし、かような期限の利益喪失約款は、差押前に第三債務者が取得した反対債権の弁済期が被差押債権の弁済期より先に到来する場合は、第三債務者の自己の反対債権を以つてする将来の相殺に関する期待を正当に保護するものであるが、反対債権の弁済期が被差押債権の弁済期より後に到来する場合には、第三債務者は相殺により自己の債務を免れ得るという正当な利益を有しないし、又、特に保護すべき必要がないのに拘わらず私人間の特約によつて差押の効力を排除し第三債務者の立場を必要以上に保護し、差押債権者に比して権衡を失する結果をもたらすもので、このようなことは契約自由の原則をもつてしても許されないものといわなければならない。従つて自働債権の弁済期が受働債権の弁済期より以前に到来するか、又は同時である場合、その範囲内において、右の如き期限の利益喪失約款は差押債権者に対し対抗できるが、自働債権と受働債権の弁済期の到来する時が逆の場合には、右の約款は差押債権者に対抗できないものと解すべきである。そしてこの期限の利益喪失約款の対抗力の有無は、被差押債権の第一次の差押債権者に対する関係における場合だけでなく、反対債権の弁済期前に被差押債権を差押えた第二次・第三次等の差押債権者に対する関係においても同一に解すべきものである。被差押債権の第一次の差押債権者には右期限の利益喪失約款は対抗できないが、期限の利益喪失約款により第一次の差押えのあつた時点において自働債権の弁済期が到来したことになり第二次以降の差押債権者の差押えは自働債権の弁済期後の差押えであるとし、第二次以降の差押債権者に対する関係においては相殺を以つて対抗できると解することは、公平の理念に基づき相殺の第三者に対する対抗力を相殺により自己の債務を免れ得るという正当な期待を有し特に保護すべき必要ある場合に限つてこれを認めることにより差押債権者と第三債務者双方の利益の調整を図ろうとする民法第五一一条の法意と、契約自由の原則をもつてしても法の容認する以上に差押えの効力を排除する特約は許されないとする理由から、正当でない。自働債権の本来の弁済期の到来前に被差押債権を差押えた第一次の差押債権者と第二次以降の差押債権者との間において、相殺の効力ならびに期限の利益喪失約款の対抗力について差異を認むべき実質上の理由は乏しいのみならず、この両者を同一に取扱つたとしても第三債務者に不当の損失を蒙らせる虞れはないものと考えられる。してみれば、被控訴人等の差押えは日光産業の差押後の差押えであるが、控訴人の有する自働債権のうち被差押債権の弁済期より先に弁済期が到来する債権には対抗し得ないがそれより後に到来する範囲においては対抗できるものといわなければならない。」と附加する。

よつて控訴人の本訴請求をその限度において認容しその余を棄却した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないので、民事訴訟法第三八四条第一項によりこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について同法第九五条・第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 福島逸雄 三和田大士 岡田潤)

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